手早い兄弟

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手早い兄弟

校門を出ると黒塗りのベンツが停まっていた。勝手な偏見かもしれないが、堅気の人間が乗る車に見えない。俺たちが車の前に立つと音もなく後部座席のドアが開いた。 流石金持ちの車というのか、運転席と後部座席の間に仕切りがあり運転手は全く見えない。後で聞くと防音にもなっていたらしい。すごい。 「弟さんがいるのに勝手にお邪魔しても大丈夫なのか?」 「本当は俺も弟がいると嫌なんだけどね。なんていうか…あいつは悪い意味で俺と似ているから。蒼井はあまり弟に近づかないで欲しい」 窓の外を眺めながら氷室が言う。手はまだ繋がれたままだ。いやなんだこれ。 話しているうちに車は大通りから裏道に入り、気がつくと閑静な住宅街の中を走っていた。全て戸建てで大きい。その中でも一際大きな豪邸に着いた。 「降りるよ」 まさかとは思ったけどここが氷室の家か…。俺とは住む世界が違うな。帰ったら雅樹に自慢しようかな。いやダメだ、理由を問い詰められてしまう。 豪邸に入るとたくさんの人に迎えられた。その人達は俺が来るのを事前に知らされていたのかスムーズに対応してくれる。 「とりあえず俺の部屋に行こうか」 氷室に促されるがままに二階への階段を上る。柔らかい絨毯が敷かれているためふかふかしている。 二階に着くと二人分の人影が見えた。一人は背が高くてもう一人は俺よりも少し低そうだ。 背の高い人影がこちらを振り返る。 「あ、兄さん。帰るの早かったね」 いたずらっ子のように少しニヒルに笑った顔は、どこか氷室に似ているイケメンだった。
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