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小春くんはずっと俺を睨んでいる。その様子に和也くんも気づいたようだ。
「小春、なんで颯人さんを睨みつけてるの。客人なのに失礼だ」
「だって、和也くんがちょっかいかけるから!よりによってこんな人を!これじゃ前と同じじゃないか!」
小春くんが顔を赤らめて怒鳴る。それを和也くんはどこか冷めた目で見つめた後、小春くんの頭に手を置いて屈んで目線を合わせた後、にっこり笑った。
「‘友達’やめよっか。俺たち」
「え」
小春くんは呆然としている。俺だってそうだ。何がどうなっているんだ。だが氷室はその言葉に特に驚くわけでもなく、平然と見つめている。
「小春も同じだね。可愛くなくなっちゃった。俺は小春のことなら全部把握したよ。小春の性格から、好みから、その感じやすい‘フリをしている’身体から、全部。だからもう興味がない。それに小春も醜くなったね。前の‘友達’とおんなじだ」
小春くんの顔は真っ青だった。口は半開きで言葉にならない小さな声を時折漏らす。
「小春は言ってくれたね、『僕は今までの人とは違うよ』って。でも結局同じだ。俺に夢中になって、俺を束縛しようとする」
それから満面の笑みで和也くんはこう言った。
「俺にとって心なんて、気持ちなんてどうでもいい。身体が満たされて気持ち良ければそれで良いだろ?」
それを聞いて遂に小春くんが泣き出した。大粒の涙を静かにボロボロ零す。
いたたまれなかった。
小春くんは確かに俺を睨みつけたり、怒鳴ったりと、自己中心的になってたかもしれない。だが涙を流す小春くんの表情からは、先程の歪んだ感情が消え去り、ただ静かに無表情に泣いているだけだ。その表情からは和也くんが好きで好きで、好かれたいけど、打ちのめされ、絶望してる様子が読み取れた。
和也くんの言う‘友達’の意味も今なら俺でもわかる。同性同士の恋愛はよく分からないが、人を愛することでは同じだ。だからこそ、想いをこのように踏みにじられた小春くんがいたたまれなかった。
そして俺は気づいたら和也君の頬を叩いていた。
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