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氷室side
ここまでは上々だろう。
俺は頑張っていると思う。イヤホンの件を怪しまれているのはわかっている。だがいくら不自然でもあれは仕方がなかった。そうじゃないと蒼井と関わりが持てなかったからだ。
それからは俺の仄暗い感情を隠してきたつもりだ。無邪気で一途なフリをして、俺の思いをわざと気づかせて、俺のことを意識させる。蒼井が少し鈍感なのは分かっていたからこれくらいで丁度いい。
セフレがいっぱいいたのは本当だ。皆んなが寄ってくるから、好みの奴を選んで抱いてきた。だがそこに気持ちは伴わない。虚しいだけ。
和也だってそうだ。俺とあいつは悪い意味で似ているから。似てるのはそれだけじゃない。実は和也と俺の好みはほぼ同じだ。最近の和也のセフレの小春は、蒼井にどこか似ている。いつもそうだ。俺と和也のセフレはどこか似ている。だから交換したこともある。我ながら爛れているとは思うけど。
だが蒼井に会ってからは蒼井にしか欲情しなくなった。蒼井をセフレなんかにするつもりは更々ない。
蒼井に愛をささやきながら、俺の胸に顔を埋める蒼井を上から眺める。
あぁ、こんなに距離が近くなった。
それは物理的な距離だけではない筈だ。
嬉しくて思わず笑いがこみ上げてくる。俺は声を出さずに笑って身体を震わせた。
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