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蒼井side
結局、俺は氷室になんの返事もできなかった。曖昧なことを言ってその場を終わりにしてしまった。今度返事をすると言って。本当に申し訳ない。けど俺自身も気持ちの整理がつかなかった。
その後のことはよく覚えていない。お茶をご馳走になって、氷室の家の人に挨拶をして出てきた。
もうすっかり夕暮れ時だ。
結局帰るのが遅くなってしまった。雅樹には適当に言い訳しよう、映画を見て遊んで帰ったとか言って。
そんなことを考えていると後ろから足音が聞こえた。最初は方向が同じだけだと思って無視をしたが、俺が歩調を早めたり、急に曲がったりしても足音はついてくる。
気味が悪くなったので勇気を出して振り返った。後ろからヒッと息を飲む声が聞こえる。
「君は…」
「たっ、たまたま方向が同じだっただけだから!」
振り返るとそこには顔を赤く染めた小春くんが立っていた。斜めがけの鞄をギュッと握りしめている。
ここまでついてきて方向が同じだけ?
俺が呆れて黙っていると小春くんは観念したのか声を上げた。
「ご、ごめん。本当はついてきてた…」
「なんで」
「蒼井さんと、少しお話ししたくて…」
そのまま小春くんは俯いてしまう。何を話したいんだろう。それは分からないがここではまずいと思った。
「そこにあるカフェに行こう」
俺が促すと小春くんは小さくうなずいた。
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