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再び遭遇
「お前さ大学どうすんの?」
部活仲間から教室で突然聞かれた。高校3年の12月、受験シーズンも本腰になり教室はどこかピリピリした緊張感が漂っていた。
俺は勉強が苦手な方ではないが凄く得意というわけでもない。だが部活ばかりやっててこの成績なら上々だろう。
「俺は…スポーツ推薦でW大に行く」
「まじかよ。その大学は頭いいけどさ、陸上はそうでもないよな?」
「W大に行きたかったんだ」
一足早く決まった俺は相変わらず走っていた。
前の大会後の‘あいつ’の気持ち悪い視線が忘れられない。振り払ったペットボトルは謝りながら結局氷室から受け取ったが、まとわりついた結露が不快だったのを覚えている。
持ち帰っても飲まずに冷蔵庫にしまった。いつの間にか無くなってたから弟が飲んだのかもしれない。
二つ下の弟の雅樹は別の高校で水泳をやっている。幼少からの努力の賜物で県の強化指定選手になっている。短髪で男らしい顔立ちをしており、水泳独特のバランスの取れた肉体はぶっちゃけ羨ましい。長距離選手だとどうしても細身になりやすいから。
それでも昔の雅樹は可愛かった。
「颯人、はやとぉ〜」
と言いながら俺に甘えてきてくれたのに最近は
「兄貴」
「お前」
「おい」
と俺を呼ぶようになり、随分他人行儀になってしまった。雅樹ももう高校生だし、お年頃なのかもしれない。
深々と雪が降る校庭を眺めながら俺は呑気に考えていた。
近々あの、‘氷室悠’に会うことになるなんて知らずに。
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