雅樹の葛藤

3/6

2398人が本棚に入れています
本棚に追加
/188ページ
真顔で俺を見つめる雅樹。バスルームに沈黙が流れた。 「ねぇ抱いていい?」 雅樹が俺の方へとグイッと身を乗り出す。顔が近い。 「…抱き締めるってことか?お前も疲れてるよな、全然構わないぞ!」 気まずい空気を振り払いたくてわざと明るい声で言ってみたが、雅樹は未だ真顔のままだ。 「ねぇそれ本気で言ってんの」 「へ?」 「カマトトぶるのはやめなよ、オニイチャン」 そう言って雅樹の顔がグングン近づいてくる。もしかして、もしかして…? 恥ずかしさに限界を感じて俺は目を瞑った。 すると額に柔らかい感触が降りてくる。拍子抜けして恐る恐る目蓋を持ち上げる。 「…キスされると、思った?」 目を開けると意地悪そうに笑う雅樹。俺は額を抑えて顔を真っ赤にした。 「冗談も大概にしろ!」 「あはは、ごめん」 「分かりにくいんだよお前の冗談は!」 やっぱそうだ。弟の雅樹が俺にキスだなんてするわけがない。抱くなんてもってのほかだ。 「あとお前、抱かせてとか何なんだよ」 「ん?そのままの意味。疲れたから抱きしめさせてってこと」 「ったく焦った」 「何に焦った?」 「え?」 「本当に抱かれちゃうと思った?」 そう言って雅樹は俺の腰あたりを抱きしめた。
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2398人が本棚に入れています
本棚に追加