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日が地平線に沈んだ頃、ようやく厳しい練習が終わった。長距離はもちろんきついし苦しいけれど、終わった後の心地よい疲労感がたまらない。
部室のベンチにどっしりと腰を落とし、さっさと帰宅の準備をする。汗臭い空気を追い出すために誰かが窓を開けたのか、冷たい風が流れてきて心地よい。
しっかり汗を拭いて制服に着替えた後、スマホから通知音がした。
部員が少し反応する。
「悪い、俺のだ」
そう言って開くと氷室からLINEが来ていた。
『練習おつかれさま。もう話は聞いた?来週から楽しみだな』
そのLINEに得体の知れない寒気を感じる。ニコニコ顔の氷室が脳裏に浮かび上がってきた。
いやいや落ち着け。あいつだって俺と立場は同じなはずだ。最後の大会に向けて相当絞ってきてるはず。
『楽しみ』って選手としてだろ?考えすぎだぞ俺。
そうだ。ついあの様子から忘れがちになるが、あいつの才能は本物だ。合宿で嫌と言うほど分かったはずだろう。特にあの朝のことは。
だったら俺は見返すぐらいの気持ちで練習しよう。
そう思って奴のことは一旦忘れることにした。
あ、そうだ。雅樹と晩ご飯の相談をしよ。
そんなことを考えて氷室を脳内から消し去った。
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