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ついに海明高校との練習が始まる。今までの努力の成果を氷室に見せつけるんだ。あの時の合宿の俺とは違う、挫折を味わって強くなった俺を。
意気揚々とスタートラインに立つと、気配で隣に氷室がいるのが分かった。チラッと横目で見ると、「選手」の顔をした氷室がいた。ぼんやりしているようで遥か遠くを見つめている。「選手」としての俺のことなんて微塵も気にしていないようだった。
その底知れなさに悪寒が走る。
「位置について、ようい」
だけど、俺だって強くなった。
「ドン!」
大丈夫。
一斉に十人ほどが走り出す。
俺はいつも通り先頭に出た。このままリードしてゴールしてやる。後ろは気にしない、いつも通り走るだけ。
あっという間に5キロ走った。未だ俺が先頭。
しかしその時だった。
「速くなったね」
すれ違いざまに囁かれる声。颯爽と抜かすサラサラの風。
まただ。その正体はやっぱり氷室だった。
速くなったのは俺だけじゃない。氷室だってそうだった。それは当たり前の事実だったが、深く胸をえぐられたようだった。
俺を抜かすと奴は真っ直ぐ走り抜けていく。俺になんか目もくれず。
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