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この日もそうだった。
氷室がこちらの顔色を伺うように話しかけてくる。話しかけないという選択肢はないのか。
普段の俺ならこんなにイライラしないはずだ。だが焦りが俺の苛立ちを助長している。頭の中ではそうやって冷静に分析できても、感情は簡単にコントロールできるものではない。
「あのさ、蒼井…」
「ったく、いい加減にしろよ‼︎‼︎」
しまった。
そう思った時にはもう遅かった。
氷室も、部員も、海明高校の選手も、驚いた様子で俺を見ている。
だが一回感情が爆発すると止められなかった。
「いつもいつも何なんだよ!俺がお前の走りを見て焦ってるのが分からないのか⁉︎」
「いや、蒼井…」
「俺は今度こそお前に負けたくないんだよ!ここが正念場なんだよ!それともなんだ、お前にとって俺はライバルでもなんでもないってか?眼中にないのか?」
「そんなことない!俺は…」
そう言って氷室は押し黙ってしまった。トラックに痛々しい沈黙が流れる。
俺が招いた事態なのに、その空気が酷く辛かった。
言いすぎた。
そんなことは分かっているが止められなかった。傍目から見て状況的に完全に俺が悪い。勝手に怒鳴り散らしたんだから。
「…悪い。今日はもう…帰る」
耐えられなくなって、走って更衣室に戻る。
追いかけてくる人は、当然、いない。
どうしちまったんだ、俺。
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