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遊佐side
蒼井の調子が戻ってきた。それはとても嬉しいことだ。
蒼井はうちの部でダントツに速いし、憧れている後輩も多い。だから蒼井がベストタイムを出したとき、部に活気が戻ってきた。
この前相談に乗ったのが蒼井にとって良かったのか、蒼井はあれから俺によく懐くようになった。
何か嬉しいことがあると「遊佐先輩、遊佐先輩!」と駆け寄ってきたり、落ち込んでも「遊佐先輩…」と静かに寄ってくる。
蒼井はかなり綺麗な顔立ちをしているため、すり寄ってくる姿は子猫のようでとても可愛らしい。
自慢の後輩だから俺も蒼井を気にかけていたので、割と嬉しい。
休み時間にいつものようにベンチに腰をかけていると、背後から気配を感じた。
その不気味さにゾッとして振り返る。
そこには氷室がいた。
「…どうしたの、氷室くん」
「仲良いんですね、蒼井と」
逆光になってて氷室の表情はよく分からない。だが口元が笑っているのだけは分かった。
「うん自慢の後輩だよ。あまりあの子を困らせないでやってくれ」
俺らしくもなく、少し嫌味な口調になってしまった。だが氷室は依然として笑っている。
「意図的にやってるんです。…遊佐さんは、邪魔しないでください」
その言葉にはハッキリとした敵意が込められていた。
…やはり、氷室と蒼井の間には何かがあるのか。
そう思った時には氷室は俺に背を向けて立ち去っていた。
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