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どういうことだと遊佐先輩に話しかけようとすると、遊佐先輩は俺の耳元に顔を寄せ囁いた。
(いいから、今は話を合わせて)
何か考えがあるらしい先輩の表情を信じて俺は小さく頷いた。
「実は俺たち付き合っているんだ。けど周りにはあまり言ってないから公にしないでくれるかな。な、颯人」
「は、はい」
先輩から突然下の名前で呼ばれてドキッとする。
だが怪しまれないように咄嗟に返事を返した。
氷室の表情が冷ややかなものから剣呑なものへと変化した。見たことのないその表情にゾクッとする。
氷室が口を開いた。
「それ、嘘ですよね」
遊佐先輩へ向けた言葉なのに、氷室は真っ直ぐ俺を見ていた。
全てを見抜いているかのような目線が怖くなって、俺は地面を見つめるしかなかった。
「嘘じゃない。陸上の話をするのは結構なんだけどそれ以外のことで颯人に無駄に絡まないでくれないかな。颯人は君に触発されて、今陸上に集中したい時期なんだよ」
そうだ。
その通り…なんだけど。
遊佐先輩の言い方にどことなく棘があるのは何故だろう。
「蒼井はずっと黙ってるけど、遊佐さんの言ってることは本当なの」
「本当だ」
「遊佐さんじゃなくて、俺は蒼井に聞いているんです」
ピシャリと氷室が言い切る。
流石にこの発言には遊佐先輩も黙ってしまった。
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