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「ねぇ、答えてよ。本当なの」
氷室は俺を真っ直ぐ見つめた。俺もゆっくりと氷室と目を合わせる。
「本当…だよ」
言ってしまった。
答えたとき、何故かこう思ってしまった。
何か、取り返しのつかないことを言ってしまったような。もう後戻りできないような。
なんでこんなに俺は動揺しているんだろう。
一時的な嘘なのに。
浮気を白状させられた恋人のような気分になっているのは何故だろう。
後ろめたくなってまた下を向いてしまう。
「ふーん…」
頭上から氷室のそんな返事が聞こえた。
「それはそれは、失礼しました。俺はお邪魔だったみたいですね」
そう言って氷室が遠ざかる気配がした。
「ごめんな蒼井、こんな嘘をついて。大会が終わるまででいいから。終わったら俺の方から氷室に嘘だって伝えるからさ」
「…いいんです。これで、氷室のことで悩まなくて…すむ」
「ごめん、氷室を遠ざけるためとはいえひどい嘘だった。氷室の行動にいちいち困惑するなら、今だけ完全に遠ざけたほうがいいかと思って。辛そうな蒼井が見てられなかったんだ。余計なお世話だったな」
「もういいですって」
「でも蒼井、酷い顔してる」
え?
あ、そうか。眉間にシワを寄せていることに気付いた。
考えれば考えるほど嫌になる。
俺はもしかして最低なんじゃないかって。
氷室は俺のこと好きだって言ってくれたのに。きっと軽い気持ちじゃないことは、今までの態度から分かっていたのに。
そんな氷室の気持ちを考えずに俺は平気であんな嘘をついた。
遊佐先輩は氷室が俺に告ったなんて知らない。だから仕方ない。
でも俺は知ってた。
あのときどうして否定できなかったのか。
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