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「こんな風に自由にできるのも、大学を卒業するまでだ」
遊佐先輩がどこか寂しそうな表情をする。
「その後は…?」
俺が聞くと遊佐先輩は夕陽をバックに悲しげに笑った。
「一生、一族の奴隷さ」
躊躇いもなくばっさりと言い捨てたその言葉に俺は黙るしかなかった。
普段は俺たち後輩のために練習を見てくれて、いつも爽やかに笑って、優しく励ましてくれる遊佐先輩。
俺は先輩のそんな姿しか今まで見たことが無かった。
けど今日このとき初めて、遊佐先輩が背負う重荷を垣間見た気がした。
この広い広い背中には、どれほどのプレッシャーがのしかかっているのだろうか。
そのプレッシャーを俺たちに全く感じさせないようにしているその笑顔の裏には、どれほどの涙が溢されてきたのだろうか。
そう考えると、遊佐先輩へなんとも言えない感情が込み上げてきた。
俺もゆっくりと遊佐先輩の腰へ腕を回す。
その感触に驚いたのか、先輩の体が一瞬蠢く。
「俺はずっと、遊佐先輩とこうやって話したいし、たまには遊んでもらいたいです」
「…」
「遊佐先輩がどこへ行ったって、何者になったって、俺はずっと遊佐先輩の後輩ですよ」
そう言うと遊佐先輩は無言で俺をきつく抱きしめた。
今だけは俺もされるがままになる。先輩は俺より遥かに体格が大きいので俺はすっぽりと包まれてしまった。
少しその体勢が続いた後、遊佐先輩は小さな声で、「ありがとう」と言った。
先輩らしくない、小さくて震え気味の声だった。
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