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「あおいーっ、蒼井!」
走ってると遊佐先輩に呼び止められた。止まると急に膝に来る。まだ部活が始まって一時間ほどのことだった。
「どうしましたか?」
尋ねると遊佐先輩は俺の顔を覗き込んだ。
「今日調子悪いんじゃないか?顔色が悪い」
「えっ、そんな」
思わず両手を頰に当ててしまう。その様子を見て遊佐先輩はクスッと笑った。
「なんだその仕草。かわいいな。まぁともかく、今週末にまた大会があるし今日は無理せず帰ったらどうだ?」
「でも…」
「はーい、先輩命令!帰りましょう!」
「は、はい」
遊佐先輩は優しい。面倒見が良く後輩からも同級生からも慕われている。かくいう俺もそんな一人だ。
中学の頃から成績を残していた俺はこの辺りの陸上やる人には少し名が知れていた。だから高校で陸上部に入っても少し距離を置かれていた。そんな俺に積極的に話しかけてくれたのが遊佐先輩だった。
それで俺は簡単に先輩に懐いてしまったというわけだ。だから遊佐先輩にはあまり強く出れない。今日もおとなしく帰ることにした。
制服に着替えて校門へ向かう。
すると見覚えのある後ろ姿があった。
サラサラの黒い髪にバランスの取れた体。背も高い。‘そいつ’は急に振り返った。
「やあ久しぶり」
垂れ目を蕩けさせて笑う。
‘そいつ’は紛れもない氷室悠だった。
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