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遊佐side
蒼井との恋人(仮)期間は正直とても心地が良かった。
今まで付き合った彼女は何処ぞの財閥のお嬢様だったりすることが多く、軒並み彼女たちは尽くされて当然と言わんばかりの態度だった。
俺もそういう世界に生きてきたし、女性の我がままを可愛いと思って聞いてあげるものだと思っていた。
だが蒼井は俺に我がままを言わない。
そもそも本当に付き合ってるわけではないのだし、男同士だし、さらに言うと先輩と後輩だから当然と言えば当然なのだが。
けどそれが俺にとって酷く新鮮だった。
蒼井は何も言わず、それでいて沈黙が気まずくもなく、ただ隣にいてくれる。
偶に蒼井が愚痴を吐くこともあるけど、俺の言うこともしっかり聞いてくれる。
男同士の友情と何が違うのかと問われてもうまく答えられないのだが、蒼井と一緒にいる感覚は男同士のそれとは明らかに一線を画していた。
家にいるとプレッシャーが絶えない。
蒼井とはずっと一緒にはいられない。
でも、これからも蒼井が俺のそばにいて、俺を支えてくれたら、どんなに心強いだろうか。
それは決して叶わない願いなのだけど。
だから、今だけは。
氷室が蒼井に抱く気持ちも薄々分かってる。
それと同時に、俺の中にある感情も自覚し始めている。
恋人として蒼井のそばにいると、氷室から壮絶な殺気を感じる。
でも今だけは譲れない。
こうして今日も俺は、部活終わりの「颯人」を迎えに行く。
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