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「不味い」
ごくごく当たり前のことを氷室が呟く。
「うまいとでも思ったか?」
「蒼井のなら、もしかしたら美味しいのかもしれないと思った」
「馬鹿だな、気持ち悪い」
「わかってるよ、今更だ。でも不味くてなんか安心した」
酷く不思議な心地だった。
俺は今、氷室の前で下半身を晒している。更に奴の手の中で爆ぜてしまった。
この特殊な状況に色々な感情を通り越して、やけに冷静になっている自分がいた。
なんで俺は普通に氷室と精液の味の話をしているんだろう。
「俺のも、味わってみる?」
氷室が意地悪そうに笑う。だがその瞳はどこか辛そうだった。
「遠慮しとく。そんなことは本当に好きになった奴にしか出来そうにない」
「じゃあ一生無理かもね」
お前の気持ちはそんなにも真っ直ぐなのに、どうして俺の気持ちは無視するんだろう。
どうしてそんな苦しそうなんだよ。
お前のそのルックスなら、選り取り見取りだろ?選び放題だろ?なのに俺だけしか見えないみたいな目をしてさ。
俺だって正直、お前の顔が結構好きだ。
顔だけじゃないけど、お前のこと嫌いじゃないよ。
あともう一歩で俺の気持ちも踏み出せそうなのに。
お前はどうして他人からの感情にそんなにも鈍い?
もう少し俺を「見て」くれ。
もう少し俺を信じてくれ。
その俺の想いも虚しく、氷室は俺の身体を再び弄り始めた。
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