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今にも泣きそうな顔で懇願する氷室に思わずクラっとする。
こいつが今俺に酷いことをしているのは間違いない。けど、レイプならもっと…こう。
無理矢理酷くするものではないのか。
少なくとも相手の意思なんか確認しないはずだ。
実際俺が頷かないままでいると、氷室は動こうとしない。体を弄っても、決定的な一線を踏み替えようとしなかった。
泣きそうに、酷く辛そうに俺の返事を待っている。
その雰囲気に、流されかけた。
その時だった。
「…!…、…!」
遠くから声が聞こえた。
氷室の表情も強張る。
駆けるような足音も聞こえて来る。この旧校舎に鍵のかかる部屋は少ない。
俺たちがいる部屋も鍵がかかっていないはずだ。
ここが見つかるのも時間の問題だった。
「…い!あお…、蒼井‼︎」
今度ははっきり聞こえる。
間違いなく遊佐先輩の声だった。
そっか、探しに来てくれたんだ。やっぱりあの人は優しいな。
なんだよ、これで氷室から逃げられる。良かったじゃないか。
なのに、このままこの場を終わらせて良いのか。
こんな顔をした氷室をほっといていいのか。
モヤモヤしている自分がいた。
「時間切れだ」
俺に覆いかぶさっていた氷室は、そう言ってゆっくりと起き上がった。
そのまま床に落ちた下着とスラックスを拾い、丁寧に俺に履かせた。
ワイシャツのボタンも一つ一つ留めていく。
気がつくと俺は元の状態に戻っていた。
「やっぱりハッピーエンドは、王子様とだ」
氷室が呟く。
いつの間にか月は雲に隠れていた。
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