2398人が本棚に入れています
本棚に追加
「とにかくもう遅いから帰ろう。雅樹くんも心配してる」
遊佐先輩が俺にスマホを見るように促す。見ると雅樹から沢山の通知が来ていた。
『今日は遅くなるのか?晩ご飯作っとこうか?』
『大丈夫か、何かあった?』
『おい、既読してくれ』
雅樹の必死そうな表情が浮かぶ。
「雅樹に申し訳ないな。…すいません、帰りましょう」
俺がそう言うと遊佐先輩は黙って俺の肩を抱いた。そのまま歩き出す。
遊佐先輩の支えがなければ俺は今にも倒れてしまいそうだった。
出口の無い真っ暗な廊下がどこまでも続いている気がする。気を抜くと足が床に沈みそうになる。
立ち止まってしまいたくなる。
氷室はまだ一人で教室にいるのだろう。
あいつはいつまであそこにいるのだろうか。
真っ暗な古びた教室に、いつまで囚われるのだろうか。
あんなに辛そうな顔をしているのに、どうして俺を想い続けるんだろう。どうして俺なんだろう。
そして俺はあいつにどう応えたらいいんだろうか。
分からないことだらけだった。
すると遊佐先輩が俺の頭をゆっくり撫でた。
「…ゆっくりでいいんだよ。時間はいくらでもあるから」
その言葉にハッとして先輩を見上げる。
遊佐先輩は真っ直ぐ前を見つめていた。
まるで俺の気持ちがわかっているかのような口ぶりに驚いた。
だが妙な納得してしまい、俺は黙ったままでいた。
旧校舎を出て校門の前に立つ。
俺はゆっくりと旧校舎の方を見た。
この旧校舎がまだ、氷室を包んでいる。
あいつはたった一人で月を眺めている。
それはやけに寒々しい月だった。
最初のコメントを投稿しよう!