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三人の夜
怠い。
今日も練習で疲れて俺は家でぼんやりしていた。
雅樹は何も言わずに皿を洗っている。
合同練習は一週間ほど前に終わった。
氷室とは結局、あれから一言も話すことがなかった。最後の練習の日にいたっては目すら合わせなかった。
別に俺は怒っているわけではないのだ。ただ、気まずくて見れない。それは氷室も同じのようだった。
氷室がいなくなった部活は急に静かになったようだった。練習量は変わらないけど心はどんどん冷えていく。
何も考えずに、脇目も振らずにひたすら練習した。練習に没頭している時だけは、何も考えずにいられたのだ。
目の前で勝手に日々が流れていく。
気がつくと、最後の大会3日前になっていた。
雅樹の方は特に何もないので、大会が近い俺に尽くしてくれている。本当によくできた弟だ。
「風呂沸いたぞ」
雅樹が俺の方にやってきて言う。
「ん」
俺はそのまま黙って両手を上げた。
「はいはい」
そう言うと雅樹は俺のTシャツを引っ張って脱がしてくれた。至れり尽くせりだとは思うけど、最近はこれが癖になってしまった。
雅樹優しい。
上半身裸になってソファーに座ってると眠くなってきた。身体が傾いていく。
「あっ、寝るな」
仕方がないと言うように雅樹が俺を風呂場まで引っ張ってくれた。
このように、雅樹の優しさを享受する日々だった。
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