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一時間目の古文で、先生が大鏡の一節を黒板に書いて説明している。
しかし俺の思考は全く別の方向に飛んでいた。
『場所はうちにしろ』
やばい、ずっと今朝の雅樹の言葉が頭の中で響いている。
うちに、氷室を呼ぶ?
しかも雅樹も立ち合いで?
考えたこともなかった。
たしかに俺は氷室の家に行ったことがある。まあ強引な誘いではあったし、和也くんとは色々あったけど。
だが人の家に遊びに行くのと、人を家に呼ぶのでは心構えが違う。
ましてやその相手が氷室である。
しかし早く返事をしないと氷室に申し訳ない。氷室だってきっと勇気を出して言ったはずだ。きっと今頃俺の返事を待っている。
……。
…それしかないよな。
休み時間のチャイムが鳴った時、俺はすぐにスマホを開いた。
もちろんその内容は、うちで会うことを条件に了承したものだ。
数分で既読がつき、『わかった』と送られてくる。
その文字を見た時、身体の内側が少し熱くなるのを感じた。たった四文字の文字列なのに、氷室が送ったという事実だけで喜んでいる自分と、それと同時に恐怖を感じている自分がいた。
そしてそこからはあっという間だった。
気がつくと放課後になり、部活が始まる。
大会は明後日。
怪我をしないよう、体に負荷をかけすぎない練習を心がける。
気のせいかいつもより練習に身が入る気がした。
そして充実感に満たされた状態で部活が終わり、辺りはすっかり真っ暗になる。
約束の時間まであと、一時間半を切っていた。
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