三人の夜

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氷室がゆっくりと座る。なんて言葉をかけていいのかわからない。 「突然こんなことを言われて戸惑っていると思う。けどどうしても謝りたかった」 「……」 雅樹も俺も黙ったままでいる。 だが氷室は俺から目線をそらすことはなかった。 「許してくれなんて…言わない。いくら衝動的だったとはいえ俺が過ちを犯したのは間違いない」 テーブルの上で組んだ氷室の手が少し震えていた。その手は何か祈っているようだった。 「けど…けどね、俺は蒼井との関係をここで終わらせたくないんだよ。このまま放置すれば蒼井との縁が切れてしまうんじゃないかって、そんな気がした」 「そうかもな」 これは俺の本音だった。 このまま何も言わずに離れていくのなら、氷室の気持ちなんてそんなもんだったんだって。 きっとそう思ったし、思うことにしていた。 そして俺の言葉に氷室は少しうなづく。 「そうだよね。だからさ…俺のことを嫌ってくれても、憎んでくれてもかまわない。だけど、俺とかかわることをやめないでほしい。気持ちが先行したけど俺は選手としても、個人としてもこれからも蒼井と走りたい」 その言葉にハッとした。 氷室が俺と同じ思いを抱いていたことが分かって安心した。恋愛感情だけじゃなくて、ライバルとしてみてくれていることが分かって嬉しかった。 それだけで、もういい気がした。 俺も氷室も、そろそろ「あの日」から解放されてもいいのかもしれない。 互いに悩み苦しんだ。 その気持ちを共有できただけで、もう十分だった。
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