三人の夜

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氷室side 何のつもりだろう。 雅樹くんが俺を駅まで送って行くのは明らかに不自然だった。 俺よりすこし前を歩いている雅樹くんから不気味な気配を感じる。 「今日はこんな遅くに押しかけてごめんね。でも言いたいことが言えたから感謝してるよ」 努めて明るく話しかけてみた。 どういう反応をしてくるだろうか。 すると雅樹くんが無言で振り向いた。 「兄貴に何したか知らないですけど、次泣かせたらただじゃおきませんから」 ゾッとするような瞳の暗さだった。 全ての負の感情が練り込まれたような。 俺の執着もなかなかだと思ったが、その瞳には年季のこもった執着を感じた。 「…まさか、ね」 「そのまさかですよ」 躊躇いもなく言い切る。 「いいの、兄弟だけど」 「そんなの今更ですよ。割り切れたらこんなに執着してない」 「お兄さんはこの事は?」 「まさか、鈍いあいつが気付くわけないでしょ」 雅樹くんは悲しそうに言った。 「その鈍さが、憎たらしいほど可愛いんですけどね」 その一言は鉛のように重かった。 そばにいるのに言えない。 誰よりも一緒にいるのに、実は他の誰よりも遠い。 視界にすら入らない。 どれだけの葛藤を彼は抱えてきたのだろうか。 「駅、着きましたよ」 駅の入り口には、切れかけの電灯が一つともっていた。
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