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颯人side
二十分ほどで雅樹が帰ってきた。
そんなに長い距離ではないはずなのに、少し疲れたような顔をしていた。
「お帰り雅樹。どうしたの、なんかあった?」
俺が心配になって尋ねると雅樹はふっとため息をこぼす。
「なんでもないよ。あと兄貴は寝てろって言っただろ。なんで起きてんだよ」
そう言うとデコピンされた。それが少し痛くて額を抑えていると頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「本番、近いんだろ。氷室先輩に負けたくないんだろ?」
「…絶対に、勝ちたい」
俺がそう言うと雅樹は微笑みながら片眉を器用に上げた。
妙に様になっているその表情にドキッとする。
「おやすみ」
俺がそう言いながら自室に向かうと背後から雅樹の「おう」という返事が聞こえた。
「あ、それと」
雅樹がさらに俺を引き留める。
なんだろうと思って振り返るとやけに真剣な表情をした雅樹がいた。
「今度何かあったら俺にすぐ言えよ、手遅れになる前に。だって俺はさ、お前の…」
「たった一人の兄弟だもんな」
「…ああ、そうだよ。'兄弟’だから。心配なんだ」
雅樹の返事は何か含みがある言い方だったが、俺は少し眠くなっていたため深くは考えなかった。
そのまま「おやすみ」と言って眠りにつく。
大会まで残り三日を切ろうとしていた。
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