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たった1人で電車に揺られ、会場の最寄駅についた。俺と同じようにスポーツウェアを着た学生でホームが埋め尽くされる。
間違いなく今日の選手だろう。
流石に規模の大きな大会とだけあって、歩いている人は皆速そうに見える。
予選とは明らかに空気が違う。
他県からも大勢の選手が参加しているのだ。俺の実力は通用するのだろうか。
ぐるぐる考えていると空気に飲まれそうになって気持ちが悪くなった。
ただでさえこの鮨詰状態である。
グラリと足元がもたつく。
すると隣の人の肩にぶつかった。
「あっ、すみませ…」
こちらが言い切る前に相手に少し睨まれた。
その眼差しを受けて言葉に詰まり、なにも言えなくなる。
みんな緊張している。気が立つのは仕方ないことだ。
だがこの空気が怖かった。
何回目の大会だよ、情けない。何年陸上やってんだ。
そう思おうとしても、今回の大会にかける思いは強く、中々気持ちは落ち着いてくれない。
負の感情が渦巻いていると、いきなり肩に手を置かれた。
「蒼井」
振り向くとそこには笑顔の氷室がいた。
その笑顔にどこか安心し、気持ちが落ち着いていくのがわかった。
「すごい混雑だね。1人で来たの?」
「…ああ、知り合いがいなくて、少し不安だった」
「そうだよね、この大会は個人で申し込んだもんね。俺も1人だよ」
今までは、必ず部員やクラブチームのメンバーと来ていた。1人ではなかったのに、みんな気を遣ってか大会前の俺にあまり話しかけなかった。
俺も1人で集中したいタイプだったから、1人で黙っていた。
それが今は、氷室と話すだけで気持ちが集中していくのがわかる。
気持ちが良い方向に大会に向いてきた。
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