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「ここに来るまで色々あったよな」
俺がポツリと言うと氷室が頷いた。
「本当にね。ねぇ知ってる、俺たちって出会って半年くらいしか経ってないんだよ」
「驚くよな。もう随分長く知ってたような気分だ」
「俺もだよ。でも人間関係って長さだけじゃないでしょ」
「…そうだよな」
ふと目線を上げる。
目線の先には大会会場があった。
俺も氷室も黙って会場を見つめる。
何かの覚悟を決めるように。
不思議な気分だった。
今隣にいるこいつが、一時間後にはライバルとしてゴールを競い合っている。
今はこうして並んでいるけれど、長距離は仲良しこよしで走るわけじゃない。
抜くか抜かれるか。
「今日は、よろしくね」
氷室がニコッと笑い、手を差し出す。
怯まないよう気持ちをしっかり作り、氷室の目をしっかり見つめ返す。
「ああ、よろしく」
握り返した氷室の手は少し汗ばんでいる気がした。
こんな顔をしていてもこいつだって少しは緊張しているのだと思うと、安心すると同時におかしくなった。
俺がクスッと笑うと氷室は少しムッとした顔をする。
「なにがおかしいの」
「いや、何でもない」
スタートの時は刻々と近づいていた。
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