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ウィンブレを脱ぐと冷たい風が肌を刺した。
ここで体が冷えたまま走ると怪我をする。念入りにストレッチしてウォーミングアップをした。
ふと隣を見ると氷室も同じようにアップをしていた。さっきより顔が引き締まっているのがわかる。
スタートの時がいよいよ近づき、スタートラインに立つように放送で促される。
スタート地点に立った時、何人か挟んだ隣に氷室がいるのがわかった。
パチリと目が合う。
氷室は俺に優しく微笑んだ。
本番直前の顔とはとても思えない。これが氷室の速さの所以なのかもしれないと思った。
だったら俺の速さの所以ってなんだろう。
考えた時特にピンと来るものはなかった。
では俺はなにを根拠に自信を持てばいいのだろうか。
少し考え込むと周りが急にソワソワしだす。
ふと見るとスタートのピストルを持った人が準備しているのがわかった。
ついに始まる。
体勢を整え深呼吸をする。
冷たい、新鮮な空気が肺に流れてくる。
その瞬間、空気を裂くような破裂音がした。
静止した空気が一気に動き出す。
俺の意識も一気に前に向いた。
ついに始まった。
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