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俺は常に前へ出る走り方だ。
中には氷室みたいに最初は前へ出ず、ラストにスパートをかけて前へ出ると言う人もいる。
俺もそれを試した時があったが、すぐに向いてないことがわかった。人より後ろにいるというのは、俺にとっては精神的にクるものがあったのだ。
だから今大会もそのスタイルは崩さない。
誰よりも前へ出て、後ろにプレッシャーを与える。
だがそのスタイルで体力が無くなり、俺自身が飲まれては元も子もない。
少し危険を孕む走り方だが、俺にはこれがあっていた。
いつも通り俺の前には誰もいない。道端にはたくさんの応援がいるのに、極度の集中でなにも耳に入らなかった。
まだ序盤だから誰も抜かしてくることはないだろう。
そう思ってクッと顎を引いた時だった。
俺の隣をサラサラの風が駆け抜ける。
そんな爽やかな風を、俺はあいつ以外知らない。
なんと氷室が俺を抜かして前へ出たのだ。
いつもの氷室ならあり得ない走り方だった。
しばらく俺の後ろにつき、最後の最後に抜かすというのが氷室だ。その走り方にイライラしたことは何度もあった。
なのにどうして。
どうしてこんな序盤に俺より前へ出るのだろうか。
普段は俺が追いかけられるのに、今回は俺が氷室を追う側になる。
いつものは全く逆の試合展開に俺は困惑した。
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