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一瞬気まぐれで前に出たのだと思った。
だが最後の大会でそんなことするのだろうか。
そんな考えが的中して、しばらく走っても氷室はまだ俺の前にいた。
心なしか少し距離が開いている気がする。
このままでは確実にまずい。
氷室のラストスパートには目を見張るものがある。あれに追随できるものを俺はまだ見たことがない。
俺だってあのラストスパートに何度泣かされたことか。
そう考えると今前に出られては非常にまずい。
前半で差をつけて逃げ切ろうとしていたが、今回はそうはいかないみたいだ。
氷室が走り方を変えたように俺も変えなければならなかった。
徐々に疲労を蓄積する足に鞭打ち、ペースを上げる。
ただでさえいつもオーバーなくらい前半飛ばしているのに、さらに速く走った。
限界を超えた走りをする。
するとだんだん氷室の背中を捉えてきた。
氷室のサラサラの髪が左右に揺れている。本番中だというのに、俺は氷室の後ろ姿をじっくり観察してしまった。
氷室って、あんな風に本番走るんだ。
やっぱり軸が全くぶれてないな。
蹴り上げるバネが力強いな。
後ろからだとわかることが色々あった。
それと同時に、無性に氷室を捕まえたくなった。
闘争心を強く刺激される。
俺の後ろを走った時、氷室も同じ思いをしているのだろうか。
もしかしてこれを見せたくて俺の前へ出たのだろうか。
そんなあり得ない考えが頭をよぎり、慌てて振り払った。
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