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レースも後半となった頃、俺はぴったりと氷室の後ろに着けていた。氷室だって俺の存在に当然気付いているはずだ。
そこから俺も氷室もペースを落とすことはなかった。
だが氷室のラストスパートがまだ残っている。
どこだ。
どこでスパートをかけてくる。
もう後半だというのにスパートをかける気配はない。
もしかして体力が残されていない?だからスパートをかけないつもりか?
いや、氷室に限ってそんなことはないはずだ。
絶対どこかで勝負に出る。
その時俺はどうする。
また氷室の後を追いかけるのか。
…いやそうじゃないだろ。
俺が前へ出るんだ。
俺が勝負に出るんだ。
もしかしたら氷室も俺がスパートをかけるのを待っているのかもしれない。
俺の足は限界に近い。どこからスパートをかけるか。体力がもってくれるか。
脚がラストスパートに耐えられる距離を探る。
今だ。
グンっと、膝のギアを一段階上げた。
膝が悲鳴を上げるのを無視して一気に速度を上げる。
そして氷室の背後から飛び出した。
もう後ろは見ない。
誰かの後ろ姿なんて見ない。
ゴールまで見ない。
だけど、
すれ違った瞬間、氷室が俺を見て笑った気がした。
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