2398人が本棚に入れています
本棚に追加
すれ違いざまの氷室の微笑みをやけに不気味に感じたが、そんな気持ちは無視した。
グングンと脚を前に伸ばし、歩幅を大きくする。
俺のラストスパートに道端から歓声が上がるのが少し分かった。
そのままゴールまで残り1キロを切る。
背後に氷室の気配はない。
あとたった1キロだ。
行ける、逃げ切れる。
そう思って最後のコーナーを曲がろうとしたときだった。
インからヌッと人影が現れる。
まさかと思って横を見ると、やはりそれは氷室だった。
いつもの冷静そうな顔を崩して必死に汗をかいている。氷室も俺の方をチラッと見たがすぐに前を向いた。
…本当に、こいつはしぶとい。俺の少し後にスパートをかけてきやがった。
…だけど、ここでまた前にいかれるわけにはいかないんだよ!
氷室に抜かされないよう、さらにペースを上げる。
その時俺たちは完全に並んだ。
初めて並走という状態になる。
その激走に応援からますます歓声が上がる。
どちらが勝ってもおかしくない。
応援は皆そう思っていただろうし、俺たちもそう思っていた。
氷室は俺より前に出ようとしない。
つまりこれが今の氷室の限界のペースなのだろうか。
氷室の最大の武器であるラストスパートを捕らえたようで、少し興奮した。
最後の陸上競技場に同時に入る。
ここを一周したらゴールだ。
同時に入った俺たちを見て観客席からどよめくような歓声が沸き起こる。
最初のコメントを投稿しよう!