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「…っあ、はっ…」
限界を超えた走りをした俺の口からは、こんな乾いた喘ぎ声しか漏れなかった。
コースからよろよろと外れてその場に倒れ込む。そしてそのまま仰向けに寝転がった。
心臓に悪いからいつもなら絶対こんなことしない。だが今の俺にそんな余裕はなかった。
ふと隣を見ると、氷室も同じようにグラウンドに倒れていた。
パチリと視線があう。
いつもの余裕そうな微笑みじゃなく、顔をクシャっと歪めて氷室が笑う。
感情が剥き出しになった、生々しい、人間らしい、それでいて本当の氷室らしい笑顔だった。
氷室がそのまま俺に左手を差し出す。
俺は迷いなくその手を握りしめた。
スタート前の握手とは違う、熱い熱い手だった。
手を繋いで、見つめあって、なんともなく2人で笑い出す。
本当に心地良くて気持ちのいいゴールだった。
その気持ちを、俺と一緒に最後まで走ってくれた氷室と分かち合いたかった。
感謝の気持ちを伝えたかった。
「ありがとう、氷室」
「っ…は、こちらこそ。めーっちゃ気持ちよかったね」
「ははっ、そんなに息が上がってる氷室初めて見た」
「そっちだって、今まであんなに速いスパートしてなかったじゃん。びっくりした」
そう言い合って、また笑い出す。
心地よい疲労感が身体にのしかかり、そのまま地面に沈み込むようだった。
どっちが先にゴールしたのかなんて、とっくに忘れていた。
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