2398人が本棚に入れています
本棚に追加
先に起き上がったのは氷室だった。
氷室がのっそりと起き上がって俺の方を見る。そのまま繋いだ手をグイッと引っ張って俺を起こした。
もう少し寝転がっていたかったが渋々起き上がる。
上半身を起こすと思いの外氷室の顔が近くにあり、ドキッとした。
「結果出たみたいだよ」
そうだ、結果。
結局俺と氷室、どっちが先だったんだ。
気になって辺りをキョロキョロすると、気づいた運営の人がわざわざ俺たちの方に来てくれた。
「いやー、お疲れ様でした!あんな接戦久しぶりに見ましたよ!」
「ありがとうございます」
俺が言うと運営の人は俺の顔をまっすぐ見つめた。
「記録なんですけど…その、本当に僅差だったんですが…ビデオ判定の結果、僅かに氷室くんの方が先でした」
その言葉に、一瞬俺の思考が停止した。
だがすぐに現実に戻る。
別にいいか、と思える気がした。
そりゃ悔しい。もちろん悔しい。
けど全力を出した結果だから後悔はなかったし、気持ちはストンと落ち着いた。
それにこいつと走るのはこれがきっと最後じゃない。
確証はないけど、なぜか確信できた。
「…蒼井」
氷室が気を遣ったように俺に話しかける。らしくもないそんな態度に思わず笑ってしまった。
「っぷは、なーに気を遣ってんだよ。今回は負けたけどまたリベンジすればいいだけだ。俺とこれからも走ってくれるんだろ?」
俺のリアクションが想定外だったのか、氷室はキョトンとした表情を浮かべる。それがまたおかしくって、笑ってしまった。
「あとさ、いつまで俺のこと蒼井って呼ぶつもり?いい加減よそよそしくない?」
「…どうしたの急に」
「別に。なあどうなんだよ、悠」
初めて下の名前で呼ぶと氷室、いや、悠の顔は分かりやすく真っ赤になった。
最初のコメントを投稿しよう!