最後の大会

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先に起き上がったのは氷室だった。 氷室がのっそりと起き上がって俺の方を見る。そのまま繋いだ手をグイッと引っ張って俺を起こした。 もう少し寝転がっていたかったが渋々起き上がる。 上半身を起こすと思いの外氷室の顔が近くにあり、ドキッとした。 「結果出たみたいだよ」 そうだ、結果。 結局俺と氷室、どっちが先だったんだ。 気になって辺りをキョロキョロすると、気づいた運営の人がわざわざ俺たちの方に来てくれた。 「いやー、お疲れ様でした!あんな接戦久しぶりに見ましたよ!」 「ありがとうございます」 俺が言うと運営の人は俺の顔をまっすぐ見つめた。 「記録なんですけど…その、本当に僅差だったんですが…ビデオ判定の結果、僅かに氷室くんの方が先でした」 その言葉に、一瞬俺の思考が停止した。 だがすぐに現実に戻る。 別にいいか、と思える気がした。 そりゃ悔しい。もちろん悔しい。 けど全力を出した結果だから後悔はなかったし、気持ちはストンと落ち着いた。 それにこいつと走るのはこれがきっと最後じゃない。 確証はないけど、なぜか確信できた。 「…蒼井」 氷室が気を遣ったように俺に話しかける。らしくもないそんな態度に思わず笑ってしまった。 「っぷは、なーに気を遣ってんだよ。今回は負けたけどまたリベンジすればいいだけだ。俺とこれからも走ってくれるんだろ?」 俺のリアクションが想定外だったのか、氷室はキョトンとした表情を浮かべる。それがまたおかしくって、笑ってしまった。 「あとさ、いつまで俺のこと蒼井って呼ぶつもり?いい加減よそよそしくない?」 「…どうしたの急に」 「別に。なあどうなんだよ、悠」 初めて下の名前で呼ぶと氷室、いや、悠の顔は分かりやすく真っ赤になった。
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