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「…っはー…。なんで、こう、顔は可愛いのにさ。…俺よりもずっと男前なんだろ」
顔を両手で覆った氷室がもう一度後ろに倒れる。
その不審な様子に俺は上から覗き込んだ。
チラッと指の隙間から氷室の目が見えた。酷く動揺しているようで、それでいて真っ赤な氷室の顔を見て少し意地悪したくなる。
「もしかして俺の下の名前知らないのか、悠?」
揶揄うように言うと氷室はパッと両手を退けた。
「しらないわけないでしょ…颯人」
初めて呼ばれた下の名前に、胸のあたりがキュっと締め付けられるのがわかった。
あれ、なんだこの感じ。想像してたのと違う。
そのくらい悠から颯人と呼ばれるのに動揺した。
自分から言い出したくせに。
「颯人っていい名前だよね。颯人にぴったりな名前だよ。風みたいで、綺麗な名前だ」
なんだこいつ。
やめろよ急にそんなこと言うの。
照れる。
今度は俺が顔を赤くする番だった。そんな俺の様子に気づいてか気づかないでか、悠はまだ話し続ける。
「舌に乗せて転がすように発音すると、心地いい感じがするよね。…実際に呼んでみたらどうなんだろうって、いつも思ってたよ」
「…どうだった?」
「想像以上。名前も、颯人自身も、やっぱり綺麗だ」
そう言って氷室が微笑む。
その微笑みが、なんというか、綺麗すぎて。
言葉が出なかった。
本当に綺麗なのはお前の方だって、言ってやりたかったのに。
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