その種、頂戴します。特別番外編2(※前編)

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   そんな瑞貴は黒の長袖シャツにシンプルなジーンズを着用していた。首からは所員証がぶら下げてあった。  彼が理正研のアルバイト所員として勤め出して半年。その仕事ぶりは好評で人当たりもいい。今では「事務局の天使」との呼び名で彼を可愛がる者も多いらしいと、つい先日、神原が心配そうな顔で零していた。 「そ、そうですよね。事務局の仕事は忙しいですか?」  内心冷や冷やしつつ話題を振った。今のひとり言を聞かれていたかもしれないのだ。安定期に入るまでは、なるべく妊娠の事は伏せておきたいのが考えだ。変な意味で隠すつもりはない。こればかりはデリケートな件だからだ。 「忙しいけど、みんなでサポートし合ってる感じて楽しいよ。やっと最近、一通り覚えたかな」  どうやら無駄な心配だったようだ。何も耳に入ってなかったらしい。  瑞貴はそう言って、にっこりと微笑んだ。出会いから考えると信じられない態度だ。いや、これが彼本来の姿なのだろう。それもきっと……。 「神原さんのお陰ですね」  誉は笑顔で返した。 「え? ああ、そうかも……うん」  素直に認めた瑞貴は照れた表情で頷いた。  神原との同居は現在も続いていて、仲良く過ごしていると聞く。瑞貴が社会的に自立出来るまで世話をすると、手を差し伸べたのも神原だ。純粋に心配しての事だろう。 「本当によかったです。神原さん、瑞貴さんの事をかなり好いているようですから」 「へっ!?」  ここで瑞貴が素っ頓狂な声を上げる。白い頬が真っ赤に染まっていた。 「この前も言っていましたよ。瑞貴さんの事、弟みたいで可愛いって」  交わした会話をそのまま伝えた。 「……あーうん……だよな……」  それを聞いた瑞貴は何故だか瞳を伏せてしまった。笑顔も消えていた。
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