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「でもね、ちょっと独占欲が強いんですよね。心配性だし……」
お腹の中の生命に向けて、ふふっと笑った。
「もし……貴方が可愛い女の子なら、お父さんの心配が少し増えますね」
まだ性別すらわからないのに、将来を想像してみた。出産への不安、順序がどうとか、今は考えずに、家族三人で暮らす未来を脳内で描いた。それだけで誉の胸はあたたかさでいっぱいになった。
ああ、早く伝えたいのに、どうして――。
「どうして、遅いんですか……路成さん」
この気持ちを今すぐにでも共有したいと、寂しさを滲ませた声色で番を呼ぶ。すると――。
「……ただいま、誉さん」
「っ――!?」
ぶわっと、心地よい香りが舞うと同時に、背もたれ越しに抱き締められた。逞しくて大きな腕が誉の肩を包んだ。
「さっきから何を一人で話していたんです?」
この魅力的な男の声は……彼だ。
「藪中さん! い、いつの間に……っ!」
慌てふためきながら背後に視線を送る。そこには満面の笑みの藪中がいた。
待ち焦がれた番だった。しかし、全く気付かなかった。物音どころか足音すら聞こえなかった。お腹に話し掛ける事に集中し過ぎたのかもしれない。
「あれ? さっき、寂しそうに路成さんって呼んでませんでしたか?」
藪中はそう言って抱擁を解くと誉の隣に腰掛けた。指先でネクタイを緩める仕草も、そこから覗く大きな喉仏も男らしい。何をしても惚れ惚れする。誉からすると、この運命の番は、極上すぎる男なのだ。
「よ、呼んでません! 貴方を名前で呼ぶのは、その……特別な時だけですから……!」
照れを隠すようにして否定した。
「特別? それはベッドの中って事?」
「そうです……って、ちょっと、何を言わせるんですかっ!?」
しかし、逆効果だったようだ。上手いこと乗せられてしまったと、誉は眼鏡の奥で瞳を吊り上げた。
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