3743人が本棚に入れています
本棚に追加
「いえ、そういうわけでは……あの、ですね……」
とうとう報告の時が来たと、誉はしどろもどろになる。
(大丈夫、あの通りに言えばいい……)
ほら、早く言ってしまえ。何度も練習をした台詞を頭の中で確認するが、肝心の声がなかなか出てこない。
「誉……さん?」
不思議がっているのだろう。どうしたと言った風に名を呼ばれた。藪中の脳裏にはきっと疑問マークが咲いているに違いない。
「っ……あの、そのですね……!」
信じられないほど緊張していた。誉はそのまま俯いて頬を染めた。あんな長い台詞、考えるのではなかったと。
(……しっかりしろ。簡単な事じゃないか)
今更だが考え直した。あれこれ言うのではなく、たった一言「妊娠しました」でいいのだ。やっと気付いた誉が意を決して頭を上げた。握りしめた手に力が入っていた。
「藪中さん! 実は私、にんっ……!」
「ああ、もしかして……」
被せるようにして藪中が言った。何かを覚ったように見えた。もともと勘のいい男だ。全てを察したのかもしれない。
発情期での性行為を彼だって充分自覚しているはずだ。確実に孕ませようと、ここぞとばかりに濃密な精を注いできたのだ。
現にこの一か月、身体を交えても激しさはなかった。妊娠の可能性を藪中は視野に入れていたのだろう。誉は話が伝わったと確信した。
最初のコメントを投稿しよう!