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「あの……藪中さん?」
身を起こして呼びかけた。
「…………」
それでも無反応を貫かれた。静止したように全く動かない。どうして何も言ってくれないのだろう。心に僅かな痛みを感じた誉は、たどたどしい口調を向けた。
「あの……もしかしてダメなの……でしょうか?」
「えっ……?!」
やっと藪中が反応を示した。何がダメなのかと、目の前の瞳が問いかけていた。誉は生じた想いをぶつける事にする。
「私……この子を産んでも、いいのでしょうか?」
確かめるようにして腹部を撫でた。
「っ……当り前じゃないですか!」
即座に返された。
「じゃあ、どうして何も言ってくれないのです!」
透かさず追及した。
子供が出来たと聞けば、藪中なら両手を上げて喜んでくれると期待していたからだ。あれだけ我が子を欲していた事も知っている。だが実際は違った。黙りこくられたのだ。予想とは違う反応が不安を呼んでいた。
「誉さん! それは……その、違うんです。ダメなわけない!」
藪中は否定をしながら、慌てた様子で首を左右に振っていた。
「違うって……何がですか?」
そんな彼に誉は眉間に深い皺を刻んで、グイと詰め寄った。
「ただ、感動しているんです! それで何も言えなくなったって言うか……うわぁ、どうしよう俺……かなり、動揺っていうか、今までにないくらいに心臓がバクバクしてて……」
胸に片手を置いた藪中が、素直な気持ちを言葉にしてきた。
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