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「藪中さ……っ!」
そうだったのかと、安堵の溜息を吐いた瞬間、ゆっくりと腕を引っ張られた。誉の身体が広い胸へと抱き寄せらる。番の芳香が鼻先を擽った。
「どうしよう誉さん……っ」
藪中の腕が背を包むようにして回った。抱擁を受けた誉の躯体が軽く湾曲した。
「ど、どうかしましたか?」
腕の中で尋ねると、藪中は感極まった声で言った。
「凄く嬉しいんです……嬉し過ぎて、これ以上の言葉が見つからない! だって、俺と誉さんの子供ですよ?!」
よほど感動しているのだろう。密着する身体が微かに震えていた。
「そうですね……私と貴方の大切な命です」
ストレートな喜びが嬉しいと、笑みを漏らした誉は藪中の胸へと耳を寄せた。興奮しているのか、鼓動が大きく打っていた。
(凄い、ドキドキしてる……)
心音の力強さに瞳を閉じかけていると……。
「出産はいつ頃ですか? 食欲がないって言ってましたけど身体は大丈夫ですか? あと、男の子か女の子、どっちでしょうか?!」
次々と質問を受けた誉が淡々と答える。
「出産は来年春の予定です。体調は胸焼けぐらいで大丈夫です。それと……」
「それと?!」
両肩を掴まれて、食い付くようにジッと見つめられた。若い瞳が期待で輝いていた。
「……性別が判明するのはまだ先ですよ。さっき二か月目って言ったでしょう?」
気が早いと、誉はクスリと笑った。
「そうか……そうですよね。俺ったら変な事を聞いてしまいました。ははっ」
気恥ずかしさを感じたのだろう。藪中は顔を赤くして俯いた。
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