その種、頂戴します。特別番外編2(※前編)

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「変じゃないですよ。さっき、この子に言っていたんです。もし、女の子なら貴女のお父さんの心配事が増えますね、って」 「そ、そんな事を言っていたのですか?」  更に頬を染めた藪中が片手で口を覆った。 「はい。語りかけって大切らしいですから……」  お腹に手を添えて微笑んだ。この小さな生命が愛おしかった。 「……あの、俺も触っていいですか?」 「もちろん。貴方の子でしょう」  コクリと頷く。大きな掌が躊躇いがちに腹部に触れてきた。温かさがジンワリと染み渡った。 「……誉さんのお腹、これからどんどん大きくなるんですよね。楽しみです」  幸福感に満ちた眼差しを向けられた。藪中は既に父親の顔をしていた。 「そうですね。でも……」  誉の表情が一瞬曇った。もう一つ、大切な事を伝えなければならないからだ。 「でも……何ですか?」  察した藪中からも笑顔が消えた。 「実は……」  ここで、オメガ男性の出産リスクの高さと、産科医から聞いた初期の流産率を誉は事細かに説明した。藪中は真剣な表情で話の全てを聞いていた。時々、難しそうな顔も浮かべていた。安静が大事と聞いた今、彼も黙っていられないと言った様子だった。誉は我儘を覚悟で訴えた。 「藪中さん、絶対に無理はしないと約束します。合同研究についても宮本センター長に相談しながら進める予定です。例え、妊娠中であっても……私は研究職から引きたくないんです」 「…………」  けれど藪中は何も言わない。眉をしかめて腕を組んでいた。硬い表情だ。これは、彼が何かを深く考え込んでいる時の顔だ。
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