その種、頂戴します。特別番外編2(※前編)

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***    それから約一か月後、九月半ばを迎えた。  誉と藪中の入籍がいよいよ明日に迫っていた。休暇は申請済だ。朝から二人揃って区役所へと赴き、婚姻届を提出した後、高級ホテルでフレンチといったコースだ。 「……インターネットで提出してもよかったかもしれない」  昼下がりの研究室。誉はひとり言を呟きながら、ソファに腰掛けて資料を捲った。  今の時代、便利になったもので、ネットで婚姻届の提出が可能なのだ。 全国民にマイナンバーカードが配布されており、そこに記載されたナンバーさえあれば誰でも簡単に利用できる。忙しい現代人だ。わざわざ足を運ばなくていいという点がメリットだろう。しかし、それだとどうも味気ない。籍を入れたという実感がないといった声も聞く。 (提出さえ出来れば、何も問題無いかと思いますけどね……)  何とも冷めた意見だ。藪中が聞けば大いに悲しむレベルだが、もちろん愛情が無いと言うわけではない。  どこまでも研究命の高城誉だ。一日であっても休みを取るのが申し訳なく感じたのだ。  先月から始まったバイオ研究所との合同研究も多忙を極めており、研究室自体の実験や、論文も書かなければならない。
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