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オレは天才じゃない。
ただ、ヒサトがゲームしたり友達と遊んだり風呂に入ったり、何より眠っている間。オレはヒマなんだ。することがない。
だから、昼間にインプットした情報を、ひたすらこねくり回して時間を潰している。公式や漢字も、何度も復習するから忘れるはずがない。
それに、ここにいるオレを、確実に認めてもらえるのが成績だった。
ヒサトに。ヒサトのテストを通じて、みんなに、オレの存在を認めてもらえる。
ただそれが嬉しかったから、オレはヒサトの代わりに勉強をがんばった。
ボクの左手はなんなんだろう。
そう、ヒサトが疑問に感じなかったはずがない。実際ヒサトは、体の一部が勝手に動く現象について、一人でいろいろ調べていた。本を読んだりネットで検索したり。ヒサトが目にしたものはオレの記憶にもなるから、これが一般的な現象ではないことくらい、オレだって知ってる。
オレは何者なんだろう。オレ自身、ずっとそう思ってきた。
ヒサトの中にいるオレ。左手しか動かせないオレ。
自分は単にヒサトの左手なのだろうか、何かの間違いで意思を持ってしまっただけの。
それとも、人の左手、あるいは全てのパーツには意思があって、ただ自力で動くことができないから誰にも気づかれないまま、宿主と一生を共にするものなのだろうか。
オレには時間だけはいくらでもあって、そんな不気味で哲学的なことを何年もぐるぐると考え続けた。
一生答えが出ないと思われた疑問。
その答えは、ヒサトの母親が握っていた。
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