君に恋したワケ

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「.......ここってバイト募集していたりしますか?」 お店からゴミ袋を持ってきた彼に一言そう尋ねた。 「いまは特にしてないんだけど、どうかした?」 「そうですか.......なら、大丈夫です。ありがとうございます」 あたしはガクリと肩を落として、彼に背を向ける。 「まってよ、バイト見つかんなくて困ってんの?」 「いや、バイトというか.......ここのスイーツ食べたとき、美味しかったから。働けたらいいなって」 こんなの真っ赤な嘘だ。 あたしはこのお店には今日始めてきた。 目の前のこの人に会うために、このお店をやっと突き止めた。 「スイーツ?どれ食べた?」 「この、ミルフィーユがとても美味しくて」 彼が片付けようとしていた看板メニューのうちのにひとつを指さす。 「へぇ.......。バイトは無理だけど、今から食べてく?」 「.......え?でも、もう」 「いいよ。入りなよ」 カランとドアを開けて、あたしをお店の中へと招き入れる。 「ありがとうございます」 作戦通り、きっと彼は自分が作っているスイーツを「美味しかった」と言われたら、こうしてくれると思っていた。 「ここよく来るの?」 「いえ、前に一度だけ。でも、ミルフィーユの味が忘れられなくて」 「.......そっか。君と同じことを言う人がいたよ。懐かしい」 すこし上を見上げながら、彼はその誰かを懐かしんでいるようだった。
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