◆封じ込めた記憶

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◆封じ込めた記憶

「二人の美少年」 ◆封じ込めた記憶  ある小説にこんなことが書いてあった。  人間は、ある状況下に置かれると、男女の性別の感覚が失われるそうだ。  もちろん、その環境下に同性しかいない場合である。  では、どんな状況であれば、同性しかいない極限状況なのか?  その小説では、その状況は兵役であった。また刑務所もそれに類するということだ。  そのような場所は他にもあるだろうが、ここでは割愛する。  当然、僕は兵役は経験したことはないし、刑務所に入ったこともない。  もし、それと似たような状況と言うことが許されるのなら、  僕にとって、男子校がそうであったのかもしれない。  男子校は、一部の男子にとっては、女性っ気が全くない世界に放り込まれたようなものだった。  確かに、その中に長く居続けることによって性別の感覚が失われ、気づいたら、男子の中に異性を見出すようになっていた。  僕の中で、人間に対する美意識が変化していった。  だが、それは僕だけではなかったようだ。  歳月を経ると、「なんだ、お前もそうだったのか!」と笑い合ったりする。  そんな経験など、これっぽっちもない人間であれば、これから書く物語には触れなくてもいいと思う。  僕はこんな話には触れたくはなかったし、これまで書いてこなかった。  このエピソードに関しては、僕は小説の主人公のように記憶の中に封じ込めていた。  その結果、初恋に関しては、奥深く書くことはあっても、同性愛については、これまで書いてこなかった。  何故か? 異常だからだ。恥ずかしいからだ。  だが、それではいけない。  普通の人間であれば、それでいいのかもしれないが、執筆に携わる立場の人間は、それではいけない。  自分に好都合のいい記憶だけを書き、不都合なことを書かないのでは、ダメだ。  書く立場の人間であれば、自分の恥部に当たる思い出を曝す必要があるのだ。  僕はそう思う。
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