65人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと、佐川はニコリと笑って、「分かってくれて嬉しいよ」と言った。
そして、僕を真顔で見て、
「僕のこと・・気持ち悪いかい?」と訊いた。
僕は首を横に強く振った。
確かに、僕の知らない世界であることに違いない。だが、それは佐川が望んだ世界ではない。姉の自堕落が招いた佐川の不幸だ。
陽が沈みかけ、少し風が吹くと、木立の葉がざわざわと揺れた。
その時だ。
ふわりと佐川の長い髪が揺れたのと同時に、僕の顔が佐川の両手で固定された。
そして、佐川はこう言った。
「自分からするのは初めてなんだ」
突然のことにびっくりした。佐川がキスをしようとしているのか、それとも他の何かをしようとしているのかも判断がつきかねた。
だが、すぐに佐川の両手の力は緩んだ。
「やっぱり、やめておくよ。こんなことをしたら、僕もあの男と同じだ」
佐川は、何かの諦めに似た表情で言った。
そして、「結構、君、いけてるんだよ」と言って微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!