◆裏庭

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◆裏庭

◆裏庭  あれから、佐川に勉強を教える回数が増えた。だが、その場所は、彼のアパートではなく、放課後の教室だったりした。日によっては喫茶店に出向き、そこで時間を過ごすこともあった。もちろん、勉強目的だ。  夏休みも間近に迫る放課後のある日のことだ。  教室で待っていても、佐川が中々戻ってこないので、探しに行った。といっても、探す場所は限られている。軽音部の部室、講堂、体育館、音楽室くらいだ。どこにも佐川の姿がないので、裏庭を抜けて、教室に戻ろうとすると、  佐川がいた。  だが、声をかけづらい状況の中に、佐川はいた。  彼は、三人の不良連中に囲まれていたのだ。ハッとして、一瞬で怯んだ僕は、校舎の陰に身を潜めた。  佐川は、図体のでかい男に、その華奢な体を壁に押さえつけられている。  佐川と彼らに何事があったんだ?  彼らは、何かの因縁をつけようとしているようにしか見えなかった。  しばらくすると、彼らの声が聞こえるようになってきた。  彼らの言葉から推察すると、本当にただの言いがかりのようだった。  図体のでかい男が恋い焦がれる女子校の子が、佐川に声をかけたらしい。佐川がその子にどんな態度をとったのかは分からないが、男は佐川にとられたと思い込んでいるようだ。  とんだ災難だ。
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