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その場に、へたり込んでいる僕に、
「まったく、君は無茶をするんだね」
同じようにその場に座り込んでいる佐川が言った。
佐川は、「ああいう手合いは、放っておけばいいんだよ。僕がうっかり手を出したのが不味かったんだけどね」と笑いながら口元を拭った。
その唇からは血が流れていた。同じように僕の口も血の匂いがした。
佐川は「全くとんだ目にあったものだ」と笑って、立ち上がろうとした。だが、足を痛めていたのか、「イテッ」と小さな声を上げ、僕の方によろけてきた。
慌てて僕は、倒れ込んできた佐川の華奢な体を支えた。
上になった佐川は「ごめん」と言った。その顔が、その向こう・・夕暮れの陽に逆光になっていた。佐川の長い髪が垂れ、僕の頬に触れた。
綺麗だ、と思った。
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