◆裏庭

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 後から思えば、その後、どうして僕はそんなことをしようとしたのだろう? どうしてそんなことを言ったのだろう、と思う。  自分の行動も言動もこれまでの僕とは違った。  けれど、僕の中に後悔はなかった。 「君は・・こんな人生を過ごしていたんだね」  佐川にそんな言葉を投げかけた気がする。  僕とは全く異なる佐川の人生が愛おしく思えた。  その容姿はもちろんのこと、家の環境が僕とはまるで違う佐川の人生に思いを馳せた。  人は、外から見ただけでは分からない。今までは、佐川の美形がひたすら羨ましかった。女の子に声をかけられる彼が羨ましかった。  だが、今は違う。他の誰も知らなかった佐川の人生を僕は知ってしまった。  あの公園で、佐川は僕にキスをしようとしていた。  だったら、今、僕は・・  僕は倒れ込んできた佐川の肩を抱いた。そして、彼の体にのしかかるように、勢いよく体を反転させた。  僕の眼下に髪を広げた佐川の顔があった。  ・・美しい。  ただ、そう思った。こんな綺麗な人間の顔を僕はこれまでに見たことがない。 「北原」 「佐川くん」と、僕たちは互いの名を呼び合った気がする。  そして、そっと佐川の唇に顔を近づけていった。  佐川は唇を受け入れるようにその身を僕に任せていた。  少し頭を上げた佐川を、僕は静かに引き寄せた。  そんな二人を誰も見ていない。
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