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だが、問題は、次の山村のセリフだった。
「それに、崎山と佐川・・できている、っていう噂だぜ」
「え・・」
僕はどう反応していいか分からなかった。言葉を理解するのに数分かかった気がする。
崎山は女好きなんだろ? だったら、どうして佐川と・・
そこまで考えて、あることを思い出した。
佐川に無理やりキスをした男のことだ。その男も女好きに加えて、男も好きだった。
更に山村はこう言った。
「佐川は・・ああ見えて、寂しがり屋なんだ」
佐川が寂しがり屋・・
確かに佐川には、そんなところがある。だが、それは僕が埋めてあげればいい。そう思っていた。
「女でいいじゃないか、寂しさを埋めるのは」
僕は一般的なことを口にした。
だが、山村は、
「いや、佐川は、女じゃダメなんだ」と、言って、
「佐川は、男が好きなんだよ」と続けた。
佐川は、男でないとダメ・・
その言葉に、僕はこれまでの何かがひっくり返るほどの衝撃を受けた。
佐川との思い出が、別の角度から書き換えられたような気がした。
佐川は、僕以外の男子とも・・そうだったのか。
山村が、どうしてそこまでのことを知っているのか。それとも山村の只の邪推なのか、僕が鈍感すぎたのか。
もっとその先の言葉を聞きたかったが、耳にするのが怖かった。
本当のことが知りたい。佐川自身の言葉が聞きたい。
けれど、その気持ちが高まるのに比して、
佐川の存在が急に遠く感じられ、次に、佐川にどんなふうに声をかければいいのか、言葉を見失っていた。
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