◆二人組アイドル

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◆二人組アイドル

◆二人組アイドル  佐川への想いが募っても、再び佐川に接する機会は生まれなかった。  再び受験勉強に精を出すことしか、僕の道は残されていなかった。 これが通常の高校生なんだ。  佐川のことは一日も早く忘れるんだ。キスをしたことも一時の気まぐれだ。きっと、佐川の方もそうだったんだ。僕は自分に言い聞かせた。  だが、そう思えば思うほど、短かった佐川との思い出が頭をよぎり、佐川の唇の感触が甦る。  いや、あれは男の唇だ。いったい僕は何を考えているんだ!  その葛藤の繰り返しの毎日だった。  勉強はしなければならない。それが疎かになってはいけない。  当たり前の受験コースに戻りかけた頃、  僕の進路は、再び間違った方向に舵を取り始めた。  夕飯時、リビングでは歌番組が映し出されていた。  丁度、アイドルの女の子が歌っているところだ。二人組のアイドルユニットだ。  クラスの何人かが言っていた。 「名塚って、右側の女の子のアキに似ているよな?」  確かに似ている。二人組のいつも右側にいるショートヘアの女の子だ。目が大きく輝いているように見える。  名塚が仮に女の子としてこの世に生を受けていたなら、まさしく目の前で歌っているアイドルの女の子にそっくりだ。  しかも名前が、「アキ」と「名塚アキオ」とご丁寧に重なっている。
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