◆美女タイプと美少女タイプ

4/6
前へ
/148ページ
次へ
 そして、もう一人、女の子みたいな男子がいた。  名塚という生徒だ。  佐川が大人の女性のイメージであるのなら、名塚は、美少女タイプだ。  美少年ではなく美少女のイメージ。  佐川とは反対で、髪は短く、背が低いが、目が大きくキラキラとしていた。  名塚は、当時、流行っていたアイドルの女の子に似ていたため、その名前をあだ名にされたりしていた。確かにアイドルの子に似ていた。   小悪魔的な感じもする子だった。  いずれにせよ、二人とも、これまで見てきた男たち。ガサツで、言葉づかいも荒く、汗臭い男たちとは一線を画していた。  春が終わった頃、僕に美意識の変化が訪れた。  女性を見ても、美しいと思わなくなったのだ。 「美は女性の中には存在しない」  僕の中にそんな哲学が生まれた。  決して、性的欲望の対象とならない美しい男には、「純粋な美」が存在する。そういうことだ。  繰り返し言うが、佐川のような美人タイプの男を見ても、女性アイドルのような名塚を見ても、恋には走らなかった。あくまでも、二人は観賞用に過ぎなかった。  僕の中で、これまでの男性観が変わったということだ。 「きれいな男の方が、その辺りにいる女子よりはよほどいい」  あとから考えれば、この発想もおかしいのだが、その時は、真剣にそう思っていた。    だが、恋とは、ひょんなきっかけで生まれ、育まれる。  たとえ、その出発点が勘違いであったとしても、確実に恋心は成長し、後戻りのできない所まで行ってしまう。  僕は、そんな体験をした。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加