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そして、もう一人、女の子みたいな男子がいた。
名塚という生徒だ。
佐川が大人の女性のイメージであるのなら、名塚は、美少女タイプだ。
美少年ではなく美少女のイメージ。
佐川とは反対で、髪は短く、背が低いが、目が大きくキラキラとしていた。
名塚は、当時、流行っていたアイドルの女の子に似ていたため、その名前をあだ名にされたりしていた。確かにアイドルの子に似ていた。
小悪魔的な感じもする子だった。
いずれにせよ、二人とも、これまで見てきた男たち。ガサツで、言葉づかいも荒く、汗臭い男たちとは一線を画していた。
春が終わった頃、僕に美意識の変化が訪れた。
女性を見ても、美しいと思わなくなったのだ。
「美は女性の中には存在しない」
僕の中にそんな哲学が生まれた。
決して、性的欲望の対象とならない美しい男には、「純粋な美」が存在する。そういうことだ。
繰り返し言うが、佐川のような美人タイプの男を見ても、女性アイドルのような名塚を見ても、恋には走らなかった。あくまでも、二人は観賞用に過ぎなかった。
僕の中で、これまでの男性観が変わったということだ。
「きれいな男の方が、その辺りにいる女子よりはよほどいい」
あとから考えれば、この発想もおかしいのだが、その時は、真剣にそう思っていた。
だが、恋とは、ひょんなきっかけで生まれ、育まれる。
たとえ、その出発点が勘違いであったとしても、確実に恋心は成長し、後戻りのできない所まで行ってしまう。
僕は、そんな体験をした。
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